芦屋の家

所在地:兵庫県西宮市
主要用途:住宅
構造:RC造
規模:地下1階 地上2階
敷地面積:664.84㎡
延床面積:407.22㎡
竣工:2000年12月
インテリア協力:ダレル・シュミット(W.&A.)

風景と記憶の継承

施主は長年この地にあった元ベルギー領事館の建物に住んでいたが、1995年1月17日の起きた阪神淡路大震災で建物は全壊し、家財の全てを失ってしまった。その後、一向に心の傷が癒えることはなかったが、年月を経てようやく元気が出てきて住宅を再建したいという気持ちが強くなったため、設計を依頼したとのことであった。施主がご高齢であることもあり、全く異なった形式やデザインの住宅では適応に無理があるだろうと思われたため、できるだけ住み慣れた導線や空間構成を再現することにした。不幸にも昔の住宅の資料は震災で全て消失してしまい、頭の片隅にある記憶の片鱗を繋ぎながら、全体の構成や平面計画を再構築する作業を丹念に行った。インテリアデザインについては、米国人のダレル・シュミット氏の協力を得ている。竣工後、何とか発見することの出来た昔の写真を見て、大変な驚きを覚えた。全体のマッシング、主要な部屋の平面構成、丸窓などのディテールなどが、予想外に相似していたからであるが、何よりもこの土地自体が持つ「ゲニウス・ロキ」を強く感じたからである。人々の心の中の風景の記憶が再現されたためか、近隣の方々からも歓迎されていると聞いている。建物は存在自体によって、既に人々の心の中に「風景」という環境情報を記憶として与えているという責任の重大さを再認識させられた作品である。

全体の構成は、単純な基本形としてのマスの中心部に、階段ホールとしての楕円形のシリンダー状ヴォイドを挿入するという極めてシンプルなものとした。その他のサンルームやバルコニーなどについては、内部の機能に従い、マスに付加したり、欠き込むという操作により配置している。特にトップライトを頂いた明るい階段ホールの空間は建物の中心として「ハレ」空間を演出すると共に、日常の主要な動線空間として重要な機能を果たしている。この部分は震災前の建物には無かった要素であるが、新規に加えることにより、新たな空間体験の記憶の創出を試みている。

平面構成は一階に主要な部屋と施主の仕事部屋を配し、2階に個人の寝室をコンパクトに配置した。来客や親戚の訪問に対し、様々なコーナーで、その親密さに準じた多様な交流が可能となるように配慮している。また、インテリアの色彩などについては、施主の好みもあり、南フランスの別荘をイメージした明るいトーンでまとめられている。